駅探訪 街探訪

主に東京メトロの駅を中心に駅と周辺の街を探訪します。コンプリートしたらまた考えます笑

機械(からくり)の唄#1

天狗小僧

 

 信州の伊那は雪があまり降らぬ。

という、定説がある。これはあるいは本当かもしれぬ。

 勿論、信州は雪国であるから、降ることには降る。降るが、隣にそびえる木曽山脈が雪雲を防いでくれるらしく、発生した雪雲は伊那ではなく、木曽地域に雪を落とす。自然、伊那には雪が少なく、南関東程度しか雪が降らぬ年もある。

 伊那谷の中に箕輪という町がある。「ほどほどの田舎」と謳っているが「なかなかの田舎」である。もし東京の人間が、友人知人が全くいない中で箕輪に住めといわれたら、おそらくリタイア続出だろう。無論、住めば都ではあるが。

 箕輪町に一人の青年がいる。名を小中茂彦という。この人物は架空の人物であるとあらかじめ断っておきたい。この物語を進めるにあたって、誰か軸となる人物を置いて進めたいと考え、彼を選んだ。先に述べた通り選んだというよりも作り出した。

 信州は機械工業が盛んである。その言はある意味では正確ではない。元々信州は養蚕業で栄えた地域であった。養蚕業といえば上州が有名だが、甲信地方、特に信州諏訪周辺も養蚕業が盛んで製糸工場が競うように林立していた。

 その理由は水にあると考える向きが多いが、実際のところは森林率と水田率に因るらしい。つまり、蚕の餌となる桑畑が成立するか否かである。これによって森林地域、上州や信州で養蚕業が栄えたとする説が有力である。ただ、森林地域は概して美しい水を持つ。その点からすると水という理由もあながち間違いではないのだろう。

 ところが、時代は移ろい、第二次世界大戦が勃発した。ただでさえ国土が狭く国力のない日本は養蚕どころではない。製糸工場は悉く軍需工場、精密機械工場に姿を変えた。さらに、運よく生き残った製糸工場もナイロンという大発明によって廃業へと追いやられてしまった。自然、残りの製糸工場も半ば自発的に機械工場へと姿を変えた。この変遷故に信州は機械工場が盛んと言われるに至る。小中はそのような環境で育った。